病気と症状

生理前のイライラや落ち込みがひどいならPMDDの可能性も

生理前、心や体に何らかの不調を感じる女性は約50~80%といわれています。しかし、イライラして激しい怒りが続く、ひどく落ち込んで強い絶望感や不安感がある、突然悲しくなって涙が出たり、情緒不安定になる…。生理のたびに、こうした重い精神症状が現れ、日常生活が損なわれている場合、PMDD(月経前不快気分障害)かもしれません。今回はPMDDとは何か、またその症状や対処法について解説します。

PMDD(月経前不快気分障害)とは

生理前からイライラや情緒不安、頭痛、乳房の張りなどが現れ、生理が始まると治まる。こうした生理の3~10日くらい前から起こる身体的・精神的な症状を「PMS(月経前症候群)」といいます。

なかでも、特に精神症状が強く、PMSの重症型とされているのが「PMDD(月経前不快気分障害)」です。1年以上にわたって生理周期ごとに、うつ状態や不安、緊張、興奮、怒りなどの精神症状がほぼ毎回現れ、日常生活に影響がある場合、PMDDの可能性があります。

PMDDの主な症状

PMDDは、憂うつやイライラなど精神症状を中心に、体にもさまざまな不調が現れます。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 激しいうつ状態や絶望感、自分に批判的になる
  • 著しい情緒不安(急に悲しくなり、理由もなく涙が出るなど)
  • 強い不安感や緊張感がある
  • イライラしたり、落ち着きがなくなる
  • 怒りっぽくなり、攻撃的になる
  • 集中力が落ちる
  • 物事への興味や意欲が低下する
  • 過食したり、特定の食べ物を食べ続けたりする
  • 睡眠過多または睡眠不足
  • 体がだるくて疲れやすい
  • 乳房の張りや痛み
  • 頭痛
  • 吐き気

PMDDを抱えている人には、感情のコントロールがきかなくなり、怒りっぽくなって対人関係で問題を引き起こす、情緒不安定で突然人前で泣いてしまう、理由のない強い不安や緊張を感じたりして、仕事や学校に行けないというケースもみられます。

PMDDはうつ病の一種とされており、治療が必要な病気です。PMDDかもしれないと感じたら、婦人科や精神科を受診してみましょう。

PMDDの治療法

PMDDの治療は薬物療法が一般的です。PMDDはうつ病と同じように、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの減少が影響しているとみられています。そこで、抗うつ剤の一種で、セロトニンの減少を抑えるSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)を用いて治療します。また、比較的軽症だったり、身体的症状の具合など個々のケースに応じて、低用量ピルや漢方薬などで対応することもあります。

PMDDを緩和するセルフケア

PMDDは、ストレスや生活習慣の影響を受けて症状が悪化します。したがって、PMDDを緩和するためには薬での治療とともに、セルフケアも大切になります。

その一つとしてまず取り組みたいのが、生理日やどんな症状がいつ起きたかを記録すること。自分の生理周期を知れば、不調になりやすい時期が予測できるようになります。その時期を知っておくだけでも気持ちが楽になりますし、体に負担がかからないように予定を調整するといった対策もできます。

生活習慣では、バランスのよい食生活や十分な睡眠をとるようにしてください。特に糖分やカフェイン、アルコールの摂り過ぎは、症状を重くするので控えましょう。

また、ストレスを上手に解消することも大切。特にウォーキングやジョギングなど適度な運動はおすすめです。血液の循環がよくなり、脳や体の動きが活性化されるため、ストレス緩和に有効だとされています。

PMDDの疑いがあれば一度受診を

PMDDは精神症状が強いため、本人も病気とは気づかなかったり、周囲にも理解されにくく、つらい生活を送っている方も多いと思います。今回ご紹介したようなPMDDの症状に思い当たる点があれば、我慢せずに受診してみてはいかがでしょうか。

生理前のイライラや体の不調をもたらすPMSを緩和するには?

生理前になると、イライラしたり、憂うつになったり、胸のはり・痛み、下腹部痛、肌あれなど、体や心にさまざまな不調が現れるのに、生理が始まると軽くなったり、自然と治まる。こうした症状があれば、PMS(月経前症候群)かもしれません。PMSは女性の8割近くが経験したことがあると言われ、多くの女性を悩ませている症状です。今回はPMSの原因や症状を見ていきながら、PMSを緩和するための対処法を探っていくことにしましょう。

PMSは“生理前”に現れる心身の不調

PMS(月経前症候群)とは、Premenstual Syndrome の略で、生理開始の3~10日くらい前から現れる身体的または精神的な不調のこと。PMSは生理が始まると症状が軽くなったり、治まったりするのが特徴で、20~30代の女性によくみられる症状です。

症状に関して、月経困難症と多くの共通点がありますが、月経困難症は生理中に起こる不調を指し、生理が始まって2~3日目にピークを迎える点でPMSと異なります。

症状は個人や年齢によってさまざま

人によって、その月によっても異なり、症状はなんと200種類以上もあるというPMS。代表的な症状には以下のようなものがあります。

PMSの代表的な症状

心の不調(精神的症状)

  • イライラする
  • 泣きたくなる
  • ぼーっとする
  • 怒りっぽい
  • 情緒不安定になる
  • 憂鬱な気分になる
  • 落ち着かない
  • いつも張りつめた気分になる
  • 家族や身近な人にやつあたりしてしまう
  • 集中できない
体の不調(身体的症状)

  • 乳房のはり・痛み
  • 肌あれ・にきび
  • 体重増加
  • 下腹部のはり
  • 眠気または不眠
  • 疲れ・だるさ
  • 頭痛・頭の重い感じ
  • 腰痛
  • むくみ
  • のぼせ

(出典:ゼリア新薬工業株式会社『知ろう、治そう、PMS』)

また、PMSの症状は年齢によっても変わってきます。20代は身体的症状が多くみられますが、30代になると、それに加えて精神的症状も現れるようになってくるのです。PMSは別名「30代中期症候群」とも呼ばれ、特に30代は症状が重くなりやすいと言われています。

ホルモンの変動が不調をもたらす

ではなぜPMSが起こるのでしょうか。実はそのメカニズムに関しては不明な点が多いのですが、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(卵胞ホルモン)といった女性ホルモンの急激な変動が関わっていると考えられています。

生理周期は25~28日を一つのサイクルとして、月経、卵胞期、排卵期、黄体期に分かれています。エストロゲンの分泌量は、月経から排卵に向けて増加し、排卵以降は緩やかに減少。その一方で、プロゲステロンの分泌量は排卵から黄体期に急増します。

こうしたプロゲステロンの急激な増加によって、女性ホルモンの分泌をコントロールしている脳の視床下部のバランスが崩れ、心身に不調をもたらすのではないかと言われています。プロゲステロンには水分を蓄え、体温を上昇させたり、腸のぜん動運動を抑えたりする働きがあり、むくみや痛み、ほてり、だるさ、便秘などさまざまな症状を引き起こすとされているのです。

また、プロゲステロンにはインスリン(血糖値を下げるホルモン)の働きを低下させる作用もあります。インスリンの働きが悪くなると、上がった血糖値を低下させるために、インスリンが過剰に分泌されてしまいます。すると、血糖値が急激に下がって、イライラしたり情緒不安定の原因になるのです。

また、エストロゲンも精神面に影響している可能性が指摘されています。排卵後にエストロゲンの分泌量が減少することで、セロトニンやGABAが低下。セロトニンやGABAは、精神を安定させる作用を持つ神経伝達物質であり、これらが減少すると、怒りっぽくなったり、不安感、抑うつなどが現れやすくなると言われています。

要注意!PMSを悪化させる4つの要因

PMSの症状は、体や心の健康状態と深く関わっています。日頃の生活を見直し、以下に挙げたようなPMSを悪化させる要因をできるだけ取り除くようにしましょう。

ストレス
ストレスや疲労が蓄積されると、症状が強く現れやすくなります。就職・結婚・転居など環境の変化が起きたり、緊張しているときも症状が重くなりがちです。

性格・考え方
律儀、几帳面、真面目、負けず嫌い、つらくても我慢してしまうといった性格の人は症状が出やすいと言われています。

食生活・嗜好品
バランスの悪い食事でビタミンやミネラルが不足すると、症状を強くする要因になります。
特にお酒やタバコ、甘いものなど嗜好品は、症状を悪化させるので要注意。

免疫力・体力の低下
風邪や病気で免疫力が低下していたり、体力が低下しているときも、症状が重くなる傾向があります。

症状が重ければ婦人科で治療を

心と体にさまざまな不調をもたらすPMS。特に精神的な症状は自分でコントロールするのが難しく、周囲にも理解してもらいにくいのがつらいところ。たとえば、イライラして怒りっぽくなり攻撃的になる。なかには、憂うつや落ち込みがひどく、部屋から出られなくなるというケースもあります。症状が重くなると、人間関係や日常生活に支障をきたすことになりかねません。症状がつらい場合は一度婦人科を受診してみてください。PMSは漢方薬や低用量ピル、抗うつ剤などで治療することができます。治療と日頃のセルフケアを組み合わせて、つらいPMSを乗り越えていきましょう。

ひどい生理痛は病気のサイン?疑うべき3つの病気を解説

生理痛の症状や程度は、軽い人もいれば、重くてつらいという人まで個人差が大きいもの。でも「生理痛は病気じゃないから……」と我慢するのはよくありません。日常生活に影響が出るほど生理痛がひどい場合は、何らかの病気が潜んでいる可能性があるのです。そこで今回は、重い生理痛を引き起こす代表的な3つの病気について解説していきます。

重い生理痛を招く三大疾患

生理(月経)のたびに症状が重くなる、痛み止めが効かなくなってきた、生理期間以外も痛みがある場合は要注意。このように、日常生活に支障をきたすほどひどい生理痛(月経困難症)は、子宮などの病気が原因かもしれません。

月経困難症を引き起こす三大疾患が、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症です。それぞれどんな病気なのか、次の章から詳しく見ていくことにしましょう。

【三大疾患その①】子宮内膜症

患者数は増加傾向!生理のたびに症状悪化

子宮内膜症は、子宮内膜に似た組織(子宮内膜様組織)が子宮の内側以外の場所(卵巣や腹膜など)で発生して、生理のたびに増殖・悪化する病気。通常は生理が来ると、子宮内にある子宮内膜は体外に排出されますが、子宮以外の場所で内膜組織が発生してしまうと、出口がないため、体内にたまって炎症や痛みを引き起こします。発症は20~40代と幅広い年代にみられます。

子宮内膜症は年々患者数が増加しており、特に注意したい病気です。患者数が増えている理由として考えられるのが、女性のライフスタイルの変化に伴う生理回数の増加。現代の女性は晩婚化や出産回数の減少などによって、昔より生涯における生理回数が多くなっています。子宮内膜症は生理を繰り返すことが原因で起こるため、現代女性は子宮内膜症の発症リスクが高くなっているのです。

主な症状:生理痛などの強い痛みや不妊症

代表的な症状は、生理痛をはじめとした痛みと不妊。生理痛は子宮内膜症患者の約90%にみられ、生理時以外の腰痛や下腹部痛、排便痛、性交痛など、痛みを訴える人が多いのが特徴です。また、子宮内膜症患者の半数に不妊症がみられるという報告もあります。

手術後も残る再発リスク

軽症・早期の場合は、ホルモン剤で排卵を止めて子宮内膜の増殖を抑えることで、病気の改善をはかります。ホルモン剤でも改善しない、または重症化している場合は手術を行います。手術には病巣部のみを切除したり、病巣部に加えて子宮や卵巣を摘出する方法があり、重症度や年齢、妊娠の希望によって選択します。

ただし、子宮内膜症は手術を行っても生理がある限り、再発する可能性が高いので、再発をぐために、手術後もホルモン剤での治療を続ける必要があります。

【三大疾患その②】子宮筋腫

女性の4人に1人が持つ良性の腫瘍

子宮の壁の部分(子宮筋層)に良性の腫瘍(こぶ)ができるのが子宮筋腫。特に30代以降になると増える病気です。成人女性の4人に1人が筋腫を持っていると言われていますが、筋腫が小さいものだったり、できた場所によっては自覚症状がなく、気づかないことも少なくありません。筋腫は複数個できることが多く、数や大きさもさまざまです。筋腫自体は生命を脅かすものではありませんが、腫瘍が大きくなるにつれて痛みが現れたりします。

主な症状:過多月経や生理痛など

筋腫ができる場所によって異なりますが、代表的な症状は、月経量が多くなる(過多月経)や生理痛、貧血など。そのほか、生理時以外の出血、腰痛、頻尿なども起こりやすくなります。

無症状なら経過観察で済む場合も

特につらい症状がなく、子宮の状態に問題がないようであれば、経過観察で様子を見ます。ある程度進行している場合は、鎮痛剤や造血剤で症状を軽くしたり、ホルモン剤を用いて筋腫を小さくしていきます。手術を実施する場合は、筋腫の場所や大きさ、年齢、妊娠の希望によって、筋腫のみの切除もしくは子宮の全摘出といった方法を選択します。

【三大疾患その③】子宮腺筋症

内膜組織が増殖して子宮全体が肥大化

子宮腺筋症は、子宮内膜様組織が子宮の壁(子宮筋層)の中で増殖する病気です。特に40代以降の女性に多くみられます。内膜組織が増殖を繰り返すと、周りの筋肉がかたくなり、次第に子宮筋層が厚くなって、子宮全体が大きく膨らんでいきます。

子宮腺筋症は、子宮内膜症や子宮筋腫と似ていますが、内膜組織ができる場所や肥大化する部分で違いがあります。内膜組織が「子宮の内側以外の場所」にできるのが子宮内膜症、「子宮の壁(子宮筋層)」にできるのが子宮腺筋症です。肥大化する部分では、子宮筋腫が「子宮の一部」、子宮腺筋症が「子宮全体」という点で異なります。

主な症状:生理痛や過多月経

主な症状は、生理痛や過多月経、貧血など。生理時以外にも下腹部痛や排便痛、性交痛が起こることもあります。

手術の場合は子宮全摘出が一般的

症状がそれほど強くない場合や妊娠の希望がある場合は、ホルモン剤での治療が中心となります。手術の場合は、子宮腺筋症は子宮全体が肥大化することが多く、正常な部分と病変のある部分の区別がつきにくいため、子宮を全部摘出する方法が一般的です。

骨盤部の炎症やうっ血が原因の場合も

これまでにご紹介した三大疾患以外に、以下のような骨盤内の病気や異常によって、重い生理痛が起こる場合もあります。

骨盤内うっ血症候群

骨盤内うっ血症候群は、骨盤内で静脈がうっ血(血液が停滞して充満する)した状態を言います。これによって、骨盤部に激しい痛みが生じたり、腰痛、脚の痛み、生理の異常出血などが生じます。骨盤部に痛みがあるにも関わらず、炎症やその他の異常がみられない場合に、骨盤内うっ血症候群が疑われます。

細菌の感染による骨盤内炎症

クラミジアや淋菌などの細菌に感染して、卵巣や卵管など骨盤部に炎症が起こるのが骨盤内炎症です。主に下腹部痛や微熱などの症状が現れます。近年、中高生の性交経験率の上昇に伴い、クラミジア感染の頻度が高くなっており、これに起因する若い女性の月経困難症が増加しています。

見逃さないで!生理痛は病気のサイン

生理痛は病気を知らせてくれるサインです。特にひどい生理痛やこれまでと違う症状や異変を感じた場合は注意してください。「ただの生理痛」だと思って、見過ごしてしまうと、病気の発見が遅れて重症化し、治療が困難になったり、不妊につながる危険性もあります。日頃から自分の体の変化に気を配るようにし、生理痛に何らかの異常を感じたら、早めに婦人科を受診することが重要です。

ひどい生理痛を放っておくのは危険!不妊を招く病気が隠れているかも

毎月の生理痛(月経痛)がつらい、だんだん症状がひどくなってきた…。こうした重い生理痛を我慢し続けてはいけません。ひどい生理痛の陰には、子宮や卵巣の病気が隠れており、不妊症を招く可能性があるからです。そこで今回は重い生理痛を引き起こし、不妊症のリスクを高める代表的な3つの病気について解説します。

ひどい生理痛は病気が原因かも

日常生活に支障が出るほど生理痛がひどい場合、子宮や卵巣の病気が潜んでいる可能性があります。特に20代~40代の女性の場合、子宮や卵巣の病気が増えてくる年代でもあるので要注意。

重い生理痛の原因となる病気として代表的なのが、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症です。これらの病気が進行すると、痛みが強くなるばかりか、不妊症の原因にもなります。また、重症化して子宮や卵巣の摘出が必要になれば、妊娠を諦めなくてはいけない可能性も出てきてしまいます。

そうした事態を防ぐためにも、まず病気について知っておくことが大切です。次の章からはこれら3つの病気の特徴を見ていくことにしましょう。

生理痛だけじゃない!不妊症を招く主な病気3つ

子宮内膜症

子宮内膜症患者の約半数が不妊症を合併

子宮内膜症とは、子宮内膜に似た組織が子宮の内側以外の場所で発生する病気。生理のたびに出血や炎症を起こし、悪化していきます。激しい生理痛のほか、月経過多や排便痛、吐き気などがみられることもあります。

子宮内膜症は強い月経痛だけでなく、不妊症のリスクが高いのも大きな特徴。なんと不妊症患者のうちおよそ半数が、子宮内膜症を合併しているともいわれています。症状が進行すると、卵管に癒着が起きたり、卵巣に腫瘍ができて排卵障害が起こるためだとみられています。

また、子宮内膜症は重い生理痛(月経困難症)の原因として上位を占め、なおかつ近年患者数が増え続けていることもあり、特に注意したい病気です。

子宮筋腫

女性の4人に1人にできる良性の腫瘍

子宮筋腫は、子宮筋層にできる良性の腫瘍。月経のある女性の約4人に1人が持っているともいわれています。ただ、症状は筋腫ができる場所や大きさによって異なり、人によっては特に自覚症状がない場合も。強い生理痛のほか、月経過多、貧血、頻尿、便秘などの症状がよくみられます。

子宮筋腫の場合、検査したうえで重い症状がなければ、特に治療せず様子を見るケースもあります。しかし、子宮筋腫が不妊症の原因になっている可能性があるため、放置するのは危険です。妊娠を望んでいるにも関わらず、1年以上妊娠しない場合は子宮筋腫の検査をしたほうがいいでしょう。

子宮腺筋症

内膜が子宮の筋層に入り込んで増殖

子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が、子宮を覆う筋肉の内部(筋層内)に潜りこんで増殖する病気。内膜の増殖と剥離を繰り返すため、周囲の組織が硬くなり、子宮が肥大化していきます。それに伴い、激しい生理痛をはじめ、月経過多や貧血などの症状が起こるようになります。

症状が進行して子宮が硬く変性すると、受精卵の着床が妨げられるため、不妊症を招く一因になると考えられています。また、子宮腺筋症になっても妊娠は可能ですが、流産率が高い傾向にあります。

早期発見が不妊症の予防につながる

今回お話ししたように、重い生理痛の裏には病気が隠れていることがあり、不妊症を招く可能性もあります。気づいたときにはすでに病気が重症化していたり、複数の病気を合併しているとなると、治療が困難になりますし、妊娠への悪影響も避けられません。早期発見・早期治療が不妊症を防ぐことにつながります。生理痛がつらい、または異変を感じたら我慢せず、早めに受診してください。

生理痛が重くてつらい……もしかして月経困難症かも?

生理痛(月経痛)の症状や程度は個人差が大きいもの。でも、痛みが強くて起き上がれなかったり、学校や仕事に行けないほど症状が重い場合は「月経困難症」かもしれません。日本では現在800万人以上もの女性が月経困難症だと推定されており、そのうち治療を受けているのはわずか10%程度だと言われています。このことから重い生理痛に対する治療の必要性が認識されておらず、多くの女性が症状を我慢している実情がうかがえます。そこで、今回は月経困難症とは何か、その原因や治療法についてお伝えしていきます。

月経困難症には2つの種類がある

生理時あるいはその直前から強い下腹部痛や腰痛、頭痛、吐き気、下痢などが現れ、日常生活に支障をきたすほど症状が重い状態を月経困難症と言います。月経困難症は特に原因となる病気がみられない「機能性」と、子宮や卵巣に病的異常がある「器質性」の2種類に分けられます。

月経困難症の種類と特徴

機能性月経困難症 器質性月経困難症
原因 子宮の収縮など(何らかの病気によるものではない) 特定の病気(子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症など)
主な発症時期・年代 10代後半~20代前半 20~40代
痛みの発生時期 生理開始前後や生理時のみ 生理時だけでなく生理時以外にも生じる
加齢による症状の変化 体の成熟化や妊娠・出産により、次第に弱くなって消えることが多い 変化がない、もしくは病気の進行に伴って悪化していく

上記の表をみると、月経困難症とひとくちにいっても、原因をはじめ、発症年齢や痛みの発生時期など、それぞれ特徴が異なることがわかります。では次の章からは、月経困難症はどのようにして起こるのか。それぞれの月経困難症の原因やメカニズムについて、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。

10代~20代前半に多い「機能性月経困難症」

「機能性月経困難症」は子宮や卵巣が未成熟な若い人に多いのが特徴です。その主な原因である子宮の過剰な収縮が生じる理由には、以下の2つがあります。

プロスタグランジンの過剰分泌

初経を迎えて2~3年経ち、生理周期などが安定し始めて、排卵が起こるようになると、強い生理痛を感じる人が増えてきます。これは生理時に子宮を収縮させ、経血を体の外に押し出す働きをする「プロスタグランジン」が、子宮内膜から多く分泌されるようになるため。生理が順調になって初めのうちは体が慣れていないので、プロスタグランジンの分泌量が多いと、子宮が過剰に収縮し、下腹部や腰の強い痛みを感じるようになります。

子宮の出口が狭い

初経が始まってしばらくは、経血に大きなかたまりが生じることがあります。ところが若い女性は子宮頚管など子宮の出口が硬く、狭いことが少なくありません。そのため生理時に、経血のかたまりが子宮頚管などを通過するとき、強い痛みが起こるのです。ただ、20~30代になって子宮が成熟したり、出産を経験すると、子宮の出口が広くなって痛みが軽くなる場合があります。

20~30代から増加する「器質性月経困難症」

子宮や卵巣などの病気によって起こるのが「器質性月経困難症」です。その原因となる代表的な病気が、子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫の3つ。これらの病気は20~30代から増えてくるため、器質性月経困難症は10代など若い人に少なく、20代以上の成人女性に多くみられる傾向があります。ここでは、その器質性月経困難症を招く代表的な3つの病気について知っておきましょう。

子宮内膜症

子宮内膜症は、本来は子宮内にあるべき子宮内膜に似た組織が、子宮以外の場所(卵巣、腹膜など)で生育してしまう病気。この組織が生理のたびに増殖と剥離を繰り返し、炎症や痛み、ほかの器官との癒着が起こり、痛みがひどくなっていきます。

子宮腺筋症

子宮内膜が子宮の筋肉層に潜り込み、増殖する病気が子宮腺筋症です。内膜組織が増殖を繰り返すと、子宮の壁が厚くなって子宮全体が大きく硬くなり、生理時の激しい痛みや経血量の増加などがみられます。

子宮筋腫

子宮筋腫とは子宮にできる良性の腫瘍のこと。生理時の出血量が多くなる、強い生理痛などの症状が起こるようになります。

月経困難症の治療法とセルフケア

機能性月経困難症は、鎮痛剤などによる薬物療法で治療できます。治療薬の第一の選択肢として挙げられるのが鎮痛剤であるプロスタグランジン(PG)合成阻害剤。PG合成阻害剤によって、子宮の収縮を促すプロスタグランジンの合成を抑制し、痛みを緩和します。PG合成阻害剤は、月経困難症患者の80%に有効だと言われています。

PG合成阻害剤が効かない場合などに用いられるのが低用量ピル。プロスタグランジンは、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)によって分泌されます。ピルが排卵を抑制することで、プロスタグランジンの合成が抑えられ、生理痛を軽減できるのです。

漢方薬も月経困難症の治療に有効です。漢方医学では生理痛や月経困難症は、血行不良や血液不足などによって起こると考えます。漢方薬によって血液の状態が整うことで、痛みだけでなく、むくみなど生理に関わるさまざまな不調の解消も期待できます。

日頃できるセルフケアとしては、冷えによる血行不良を防ぎ、ストレスをためないようにすることが大切。体が冷えて血行が悪くなると、プロスタグランジンが骨盤内に滞り、必要以上に子宮が収縮して、激しい痛みにつながってしまうのです。ストレスがたまると、ホルモンや自律神経のバランスが崩れて、生理痛の痛みを強く感じさせる原因になります。

また、器質性月経困難症の場合は、原因となっている病気の治療が必要です。症状の種類や重症度によって、鎮痛剤やホルモン剤で済む場合もあれば、手術の必要があるケースもあります。

生理痛がつらいと感じたら早めに婦人科へ

月経困難症は「ただの重い生理痛」ではありません。その背景には、子宮などの病気が潜んでいる可能性があるのです。症状によっては手術が必要になったり、病気が不妊につながる場合もあります。病気が原因ではない場合でも、症状が重く、普段の生活に支障をきたすなら治療が必要です。「痛みが強い」「生理のたびに症状がひどくなる」など生理痛がつらい、今までと変わってきたと感じたら、早めに婦人科を受診するようにしてください。